カオス理論について

カオス、数値誤差により予測不可能な複雑な現象

カオス理論について書こうと思います。日常でもたまに耳にするカオスという言葉ですが、日常語のカオスではなく物理学におけるカオスを扱います。カオスという言葉は物語や小説でも「混沌」といった意味合いで使われており、それは物理学に於いても変わりません。似ています。但し、数式を用いてカオスを理解しようとしている部分は物語や小説とは違った部分でしょう。

数式との付き合い方で物理学や数学が面白いか面白くないかの違いが出てくると思います。数式など特にそうですが、私は難しそうなものを前にするとつい目を逸らしてしまいます。

物理学におけるカオス理論とは何でしょうか。まずは手っ取り早くWikipediaの冒頭を確認してみましょう。

カオス理論(カオスりろん、英: chaos theory、独: Chaosforschung、仏: Théorie du chaos)とは、力学系の一部に見られる、数的誤差により予測できないとされている複雑な様子を示す現象を扱う理論である。

カオス理論

これを参考にすると、カオスは力学系の一部に見られる数値誤差により予測できない現象となります。「数値誤差により予測不可能な複雑な現象」というところがカオスのイメージの通りですね。

力学系の\(\zeta関数\)

では、説明の中にあった「力学系」とは何でしょうか。

力学系(りきがくけい、英語: dynamical system)とは、一定の規則に従って時間の経過とともに状態が変化するシステム(系)、あるいはそのシステムを記述するための数学的なモデルのことである。

一般には状態の変化に影響を与える数個の要素を変数として取り出し、要素間の相互作用を微分方程式または差分方程式として記述することによってモデル化される。

システムの状態の変化は関数によって与えられ、現在の状態から将来の状態を一意に決定することができる。

力学系

力学系とは、現在の状態から将来の状態を一意に決定できるシステムです。この記事の題材であるカオスは力学系の一つですからカオスとは、現在の状態から将来の状態を一意に決定できるにも関わらず数値誤差により予測不可能なシステム、ということです。

将来を決める数学的なモデルがあるにも関わらず、サイコロの目のようにどうなるかわからないなんて、自然とは奥が深いですね。

カオスを知るためにはもっと力学系を知らなければいけない気がしてきました。ということで少しだけ次の力学系の書籍を開いてみることにします。

すると様々な単語が飛び交う中、私は「力学系の\(\zeta関数\)」という単語に目が止まりました。\(\zeta関数\)といえば、リーマンの数学者が書いた「与えられた数より小さい素数の個数について」という数論に関する論文に掲載されたリーマンの\(\zeta関数\)」でしょう。この論文の「リーマン予想」は数論における最も重要な未解決問題の一つとされているものです。\(\zeta関数\)という言葉が数論と関係がなさそうな力学系の書籍で出会えた訳ですから、興味深いことです。

では、力学系の\(\zeta関数\)とは何でしょうか。リーマンの\(\zeta関数\)と比べながら、書籍を参考に見ていきましょう。まず、リーマンの\(\zeta関数\)とは次の式で表されます。

$$\zeta_{R} (s)=\sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n^s}=\frac{1}{1^s} + \frac{1}{2^s} + \frac{1}{3^s} + \cdots$$

続いて、力学系の\(\zeta関数\)。

$$\zeta_{\sigma} (s)=- \exp ( \sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n} N_{n} (\sigma ,fix) s^n)$$

ここの\(N_{n} (\sigma ,fix)\)は\(\sigma^n\)の固定点、すなわち時刻がn経過するごとに元の位置に戻ってくる点の個数です。あまりリーマンの\(\zeta関数\)とは似ていないと私は感じます。ただ、これでは似てはいませんがいずれの\(\zeta関数\)も無限積で表すことができます。言い換えると無限の因子で因数分解することができます。まず、リーマンの\(\zeta関数\)の場合は次の無限積です。

$$\zeta_{R} (s)=\prod_{p \colon 素数} \frac{1}{1 – p^s}$$

続いて、力学系の\(\zeta関数\)の場合。

$$\zeta_{\sigma} (s)=\prod_{\tau \colon 周期軌道} \frac{1}{1 – p^{|\tau|}}$$

ここで\(|\tau|\)は周期軌道\(\tau\)の周期です。

無限積で書くと2つの\(\zeta関数\)はそっくりですね。

それぞれの無限積に現れているように、リーマンの\(\zeta関数\)は素数に、力学系の\(\zeta関数\)は周期点に関係があるようなのです。私が読んでいる\(\zeta関数\)が登場した力学系の書籍にも、

位相力学系の周期点は、数論における素数に対比されて調べらている。その典型は\(\zeta関数\)である。

力学系

とありました。

さて、与えられた数より小さい素数の個数を見積もる数式があり、素数定理と呼ばれています。x 以下の正整数に占める素数の個数を\( \pi (x)\)とすると

$$\pi (x) \sim \frac{x}{\ln x}$$

リーマン予想とも関わりが深いというこの定理は、リーマンの\(\zeta関数\)を利用して証明されました。

ということは、数論における素数に対比で、力学系の\(\zeta関数\)を使って、周期点についての素数定理があるのでないかな、と夢が膨らむのです。

不安定な無数の周期点

かなり話が脱線してしまいましたね。では、Wikipediaのカオスの定義を確認してみましょう。

1.初期条件に鋭敏に依存する。

2.位相的に推移的である。

3.周期点は稠密である。

カオス理論

私がよく分からないのは、3つ目の条件です。周期点が稠密に存在するとは、どういうことでしょうか。規則的に元の位置に戻る周期点は予測可能ですので、カオスとは正反対です。カオスとは不規則で予測不可能なものでした。初期値鋭敏性のため全ての周期点は安定して観測出来ないとはいえ、カオスの挙動にどういう影響を持つのでしょうか。

カオスの観測量

結局初期値鋭敏性によって各軌道を追うことが出来ないとすれば、カオスの観測量として何を考えるべきなのでしょうか。任意の量の長時間平均は、小さな摂動に対して安定で、実験的に再現可能となります。これを統計安定性と呼びます。この再現可能な平均量が、測るべきカオスの観測量です。これはカオス軌道群の混合性の結果です。

さて、つらつらとカオス理論について書いてきましたが、私は本当のところ理解出来ているのでしょうか。それを確かめるためカオスの例となる簡単な数式で、実際にカオスの観測量を計算しなければと思っています。

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