Bäcklundさんの変換とは何か。
「Bäcklund」で「ベックルンド」と読んでください。
本記事では原語の綴り「Bäcklund」が好みなので、カタカナではなくこちらで書きます。ドイツ語のウムラウト「ä」の入力方法を知らず調べるのに苦労しました。
フーリエ変換よりBäcklund変換に興味のある方は少ないと思います。Bäcklund変換についての記述を読んでも、全くピンと来ません。理解に大変手こずっていて、まずはそもそも「変換」とは何かを熟々と考えてみました。
結局Bäcklund変換とはどんな変換でしょうか。いろいろと調べた結果、
Bäcklund変換とは微分方程式の解から微分方程式の解への変換です。
そして、そんなBäcklund変換を考えることができる微分方程式がたくさん存在するらしく、ソリトン方程式とか可積分系と呼ばれています。ソリトン方程式や可積分系を一から理解するには道のりが長すぎるのですが、どこから始めればBäcklund変換への近道でしょうか。そもそも私がBäcklund変換に興味を抱いたのは、何度か引用しました非線形波動の書籍を読んだのがきっかけです。この書籍ではソリトン方程式の中で、特にKdV方程式というものを大きく取り上げていました。一方、Bäcklundさん本人は微分幾何学で登場するSG方程式というソリトン方程式からBäcklund変換に辿り着いたそうです。次は、私がBäcklund変換に興味を持つきっかけになった物理学の書籍からの引用です。
ソリトン解を構成する方法の1つにBäcklund変換がある。1875年、A.V.Bäcklundは微分幾何学において、曲面間の変換を議論した。SG方程式は、一定負曲率の曲面を表わすので、その曲面間の変換はSG方程式の解の変換に相当する。以下では、微分幾何学的な意味づけには立ち入らず、扱いやすい形でBäcklund変換を定義しよう。
岩波講座 現代の物理学〈14〉非線形波動
繰り返しになりますが、KdV方程式やSG方程式は、可積分系とかソリトン方程式とか呼ばれているらしいのです。しかし、いきなり可積分系やソリトン方程式の一般論は難しそうですので、
まずKdV方程式に話題を限定してBäcklund変換を理解に迫りたいと思います。
KdV方程式とは、以下の微分方程式です。
$$ \frac{\partial u}{\partial t} + 6u\frac{\partial u}{\partial x} + \frac{\partial^3 u}{\partial x^3} = 0$$
KdV方程式
このKdV方程式についてのBäcklund変換から見ていこうと思います。
Bäcklund変換は解から解への変換ですので、KdV方程式の解が一つ見つかれば、それから新しい解を作ることができるはずです。KdV方程式には、ソリトン解と呼ばれ、1-ソリトン解、2-ソリトン解、、N-ソリトン解と無数の解の系列が存在します。このソリトン解は以下のとおりです。
0-ソリトン解(自明な解)
$$u(x,t) = 0$$
1-ソリトン解
$$ u(x,t) = 2\kappa^2 {sech}^2 \kappa(x-ct+ \delta)= 2\frac{\partial^2}{\partial x^2} \log (1 + e^{2\kappa(x-ct+ \delta)})\quad (c=4\kappa^2)$$
2-ソリトン解
$$ u(x,t) = 2\frac{\partial^2}{\partial x^2} \log \left(1 + A_1e^{2\kappa_1(x-c_1t+ \delta_1)} + A_2e^{2\kappa_2(x-c_2t+ \delta_2)} + \left(\frac{\kappa_1 – \kappa_2}{\kappa_1 + \kappa_2}\right)^2 A_1 A_2 e^{2\kappa_1(x-c_1t+ \delta_1)+2\kappa_2(x-c_2t+ \delta_2)}\right)$$
但し
$$(c_1=4\kappa_1^2,c_2=4\kappa_2^2)$$
N-ソリトン解
$$u(x,t) = 2\frac{\partial^2}{\partial x^2} \log \mathrm{det}A(x,t) $$
但し
$$A_{ij}=\delta_{ij}+\frac{1}{\kappa_i + \kappa_j} e^{-\{\kappa_i(x-c_it+ \delta_i)+\kappa_j(x-c_jt+ \delta_j)\}}$$
$$c_i=4\kappa_i^2\quad(i,j=1,2,\cdots,N)$$
これらが本当に解になるのかは、KdV方程式に代入すれば示せます。私は、簡単そうな1-ソリトン解で確かめてみましたが、確かに1-ソリトン解はKdV方程式をみたしていました。
いつかN-ソリトン解についても確かめたいと思います。では、
KdV方程式のBäcklund変換
とは、何でしょうか。それは、以下のとおりです。
$$u(x,t)=\frac{\partial w(x,t)}{\partial x}$$
$$u^{\prime}(x,t)=\frac{\partial w^{\prime}(x,t)}{\partial x}$$
とすると、以下の関係式を満たせば、\(u^{\prime}\)がKdV方程式の解なら\(u\)もKdV方程式の解になる、らしいです。
$$\frac{\partial w}{\partial x}+\frac{\partial w^{\prime}}{\partial x}=-2\eta^2 + \frac{1}{2}(w-w^\prime)^2$$
$$\frac{\partial w}{\partial t}+\frac{\partial w^{\prime}}{\partial t}=2\left\{\left(\frac{\partial w}{\partial x}\right)^2+\frac{\partial w}{\partial x}\frac{\partial w^{\prime}}{\partial x}+\left(\frac{\partial w}{\partial x}\right)^2\right\} – (w-w^{\prime})\left(\frac{\partial^2 w}{\partial x^2}-\frac{\partial^2 w^{\prime}}{\partial x^2}\right)$$
この関係式を使って既知のKdV方程式の解\(u^{\prime}\)から新しいKdV方程式の解\(u\)を求めることをBäcklund変換と呼びます。
Bäcklund変換を使ってソリトン解を作ってみたいと思います。
Bäcklund変換を簡単な例で実行してみたいと思います。自明な解\(w^{\prime}=0\)をBäcklund変換の関係式に代入して、新しい解\(w\)を求めることを考えます。
$$\frac{\partial w}{\partial x}=-2\eta^2 + \frac{1}{2}w^2$$
$$\frac{\partial w}{\partial t}=2\left(\frac{\partial w}{\partial x}\right)^2 – w\frac{\partial^2 w}{\partial x^2}$$
これから\(w\)を求めることができて、それが1-ソリトン解になるのかな、考えていたのですが、まだうまく行っていません。
うまくいけば0-ソリトン解から1-ソリトン解へのBäcklund変換ができたことになるのですが、引き続き挑戦します。
ところで、どんな可積分系であってもBäcklund変換を考えることが示せたら嬉しい。
いつかはソリトン方程式一般に対してのBäcklund変換を理解できれば幸いです。下記、非線形波動の書籍からの抜粋によれば、それは可能なことのはずです。
ソリトンを記述する方程式(ソリトン方程式)は、共通の性質をもっている。
1)無限個の保存則をもつ。
2)Bäcklund変換や広田の方法等により、ソリトン解を構成できる。
3)逆散乱法を使って、初期値問題を解くことができる。
4)ハミルトニアン力学系として、完全積分可能系である。
岩波講座 現代の物理学〈14〉非線形波動
Bäcklundさんの考えた変換は別物?
Bäcklund変換とは何かを知ろうとして、様々考えてきました。Bäcklundさん本人は微分幾何学という数学の分野でBäcklund変換を考え出したようですが、私が見てきたBäcklund変換は物理学のソリトン理論の中でのものでした。二つのBäcklund変換は無関係ではなさそうなので、これらの関係もいずれは理解したいところです。
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